未来の価値 第35話 |
「ルルーシュ!君の部屋のカギだけど」 「・・・ああ、やっと気付いたのか。随分と遅かったな」 鍵が開かずパスも弾かれ入れない事を伝えようとしたが、当の本人は今頃かという顔であっさり答えた。もしかしてと思う気持ちはあったが、本当に意図的に入れないようにしていたなんて。電子機器の故障ではなく故意だと確定したことでスザクは大きく息を吐いた。 「遅かったって、君の部屋が開けられなくてどれだけ心配したと思ってる!」 「心配?何を言っているんだ。俺は今日1日オフだぞ?何処で何をしていようとも文句を言われる筋合いはない」 眉を吊り上げ叱りつけようとしたスザクを、ルルーシュはしれっとした顔であしらった。だが、視線はスザクからそらしているので、悪いとは思っているのだろう。そんな態度も気に入らないと、スザクはなおも続けた。 「君は総督補佐で、何より皇族だ!護衛も無くうろつくなんて、危険すぎるだろう!」 「残念だがスザク。俺の場合は護衛をつけている方が危険で不安なんだよ」 そんな事も解らないのかと、ルルーシュは鼻で笑った。 母殺しの犯人が紛れている可能性は否定できない。腹違いの兄や姉、妹たちの手の物が紛れているかもしれない。護衛のフリをしてルルーシュに近づきさえすれば、非力な皇子に害を成すことなど簡単なのだ。そして、事が起きた後は適当な理由をつければいい。とうの昔に死んでいた皇子が死んだところで何も問題ない。 「・・・わかった。政庁に戻る時は僕が付いて行くから、一人では帰らない事」 僕は、信用してくれるよね? 過去に起きた暗殺事件を出されればスザクは強く出れなかった。あの事件のことはジェレミアからも聞いたが、犯人が誰なのか、何人だったのかもわからないらしい。ただ、名誉ブリタニア人とナンバーズの仕業だという噂だけはあった。 「・・・仕方ないな。一緒に帰ってやらなくもない」 「可愛くないなぁ。そんな事言うなら、これ上げないよ」 スザクはそう言うと、買ってきた洋菓子屋の箱をトントンとつついた。 テーブルの上に置かれていた箱を気にしていたルルーシュは、思わず眉を寄せる。 「僕が帰りがけに買ってきたんだけど、それでも心配?」 「・・・よこせ」 スザクが予定外に買ってきた物なら毒の心配はないと、ルルーシュは不遜な態度で言ってきた。 「ルルーシュ、そこはありがとうとお礼言う所だろ」 「うるさいな、くれるのか、くれないのかハッキリしろ!」 「ホント君ってガサツになったというか・・・」 沸点が低くなっているというか。 寝起きでユーフェミアの相手をしたから機嫌が悪く、イライラスイッチが入りっぱなしなのかもしれないが。むっとした表情で睨んでくるため、スザクは、解ったよ。と、箱を開け、中からプリンを取り出した。 甘い香りとともに美味しそうなプリンがいくつか出てくると、端から見て解るほど、ルルーシュの表情が柔らかくなって、瞳がキラキラ輝いた。 ルルーシュの好物だし、最近食べる機会もなかっただろうから、よほど嬉しいのだろう。 可愛らしい反応に、スザクの苛立ちも一瞬で吹き飛び、こちらも笑顔になった。 そんな二人を、「プリンでこんなに喜ぶなんて。そうよね、大人びて見えるけど二人共まだ子供なのよね」と、セシルも笑顔になっていた。 「これは一般的なタイプで、こっちが焼きプリン、こっちが抹茶味で、ああ、お店のお勧めはこれ、卵たっぷり使用特製プリン」 スザクが取り出す姿を真剣に見ていたルルーシュは、迷うことなく特製プリンに手を伸ばした。それ僕が食べたかったのに~と、遠くからロイドの声が聞こえた。 「多めに買ってきてるから、好きなだけ食べていいよ。ロイドさん分の特製プリンも買ってきてますから」 作業中のロイドにも言うと、科学者は両手をあげて喜んだ。 「やった~流石スザク君っ!」 作業してる場合じゃないよね。と、作業を切り上げやってきた。 セシルはロイドとスザク、そして自分の分のコーヒーを入れてから席についた。 ルルーシュは先程から飲んでいるペットボトルの紅茶だ。 皇族とのティータイムと言えば薫り高い紅茶を入れるのが普通だが、今回は眠気覚ましも兼ねたインスタントコーヒーが用意された。「そう言えばインスタントは飲んだ事がないな」と、ルルーシュはスザクのコーヒーを勝手に一口飲み、薫りも悪いし美味くないと文句を言って返してきた。 「だが、手軽に飲む事を考えれば上出来か・・・。それよりロイド、この書類の事で聞きたい事が2点あるんだが」 手持ちの書類をロイドに見せ話だした。 それはロイドとセシルが作成した資料で、「ああ、それですか」と、ロイドはプリンを食べながら頷いた。ルルーシュはその資料をテーブルに広げると、ロイドは椅子を動かし、資料が見やすい場所へ移動した。 「この34ページ22行にあるこの・・・・」 「ああ、ここですね。これはですね・・・」 「成程、ただエナジーフィラーのエネルギーを流すのではなく、ランスロットが動くことで発生した運動エネルギーを・・・」 「ええそうです、つまりですね・・・」 と、スザクには全く意味の解らない会話が始まった。 セシルはメモを取り出し、二人の会話に耳を傾けている。 内容が理解できないのはスザクだけ。 そういう意味では、ユーフェミアが話を聞いているのと変わらないのだが。 「・・・え?もしかしてロイドさん、3日前に左腕部弄ったんですか?」 「うん、このチップを入れたんだけど・・・あれ?なんで左腕って解ったのかなぁ」 「いえ、先日の起動実験で、左腕、特に関節部が右腕に比べて若干動きが重くなっていたんです。本当に誤差の話なので気のせいかとも思ったんですが」 「エネルギー効率が良くなった代わりに、稼働効率が落ちた可能性があるな」 装着したというチップの資料に目を通しながらルルーシュは眉を寄せた。 「う~ん。実は思ったほどエネルギー効率は上がらなかったんですよねぇ。それなのに違和感を感じるとなると、±0どころかマイナスでしかないかな。まだまだ改良の余地ありってところですかねぇ」 「そうだな、左腕のチップは外した方がいいだろう。違和感がある以上、不具合が起きるかもしれない。それと、ロイド。俺も少し考えてみたんだが・・・」 そう言って分厚いマニュアルのような物をルルーシュは取りだした。 ルルーシュのカバンには一体どれだけの物がっ入っているのだろうか。 寧ろ、そんな分厚い資料作る暇があったのだろうか。 ルルーシュの事だから、政務の間の気晴らしに作っていそうだけど。 3cmはあるだろうルルーシュ手製のマニュアルをパラりとめくったロイドは、途端に表情を改め、貪る様に文字を追い始めた。こんなロイドは初めて見る。 驚きの眼差しをロイドに向けていると、ルルーシュは気になっていたプリンを3つ食べ終え、ペットボトルの紅茶を口に含んだ。ルルーシュにしては3つは多いのだが、昼食も食べずに寝ていたからお腹が空いていたのかもしれない。 「読み終わるまで時間がかかるだろう。セシル、ランスロットを見せてくれないか」 食べ終わった全員分の空の容器をまとめ始めたルルーシュにセシルは慌てて「私がしますので殿下」と止めた。ルルーシュは「そうか、すまないな」と、セシルに任せた。 「じゃあ、スザク、ランスロットのコックピットに行くぞ」 そう言うと、ルルーシュは颯爽とした足取りでランスロットへ向かって行った。 |